最後の最後にヒルにやられた、ツボクリ谷のイワナ釣り

この夏、狂ったように渓流に通っているが、あの小さくて恐ろしいホラーな生き物、ヤマビルに遭遇することはなかった。
しかし、この日は朝からいきなりヒルの挨拶を受けた。
アシビ谷では一尾も釣れず、ツボクリ谷の上流部から、キープするには心苦しいがチビイワナとは言えないサイズのイワナが釣れ出した。前回、登山道が荒れてるので沢通しに下ったが懲りたので、京都府最高峰・皆子山(標高971m)に登頂してから、平(たいら)へ降りた。
車がビュンビュン行き交うR367を歩いて、旧道の入渓地点に止めた車に戻り、「さあ、帰ろうか」という時、”奴”にやられた。
目次
いきなり足元にヤマビル
明王谷に行くつもりで出発したが気が変わり、ツボクリ谷へ向かった。湖西バイパスから見ると比良山方面の山の輪郭は、いつもの様にくっきりせず、雲がかかっている。花折峠の道も濡れており、それなりの雨が降った後のようだ。

入渓そうそう、ヒルがよじ登ってきた
渇水気味の渓に水が増えて釣りやすくなってる期待と、ヤマビル出現の不安が頭をかすめた。
これまではカラッと暑い日ばかり選んで沢に入っていたので、今シーズンはまだ一度もヒルにやられてない。しかし、どうも今日は怪しい。
ちょっとゆっくり目の5時45分にアシビ谷口に着く。崩壊した林道は、しっとりと濡れていた。発電所より上流あたりから釣り始めようと、林道を急ぐ。
発電所の手前で、嫌な気配を感じて足元を見ると、両足の渓流足袋に一匹ずつ、さっそくヒルがくっついている!
だが、足元周りの防御には自信がある。こいつらを写真に撮って、指で跳ね飛ばし、この時点では余裕をかましていた。
日が登って晴れてきたら、ヒルなんかひっこむだろうとタカをくくっていた。
アシビ谷で散漫な釣り
アシビ谷で釣り始めるが、雨上がりのせいか、深みの濁りがきつい。空気が湿っているせいか、偏光グラスがやたらと曇る。
晴れてきたので、ヒルの不安も忘れてルアーをキャストし投げる。しかし、流れからの反応は薄い。
アシビ谷小屋のあたり、いい浅瀬が続くのでテンカラ釣りに変えたが、どうも集中できない。気持ちはすでに、枝谷であるツボクリ谷のイワナに向かっている。

チビイワナが釣れて、ひとまず安心
9時ごろ、左手から合流するツボクリ谷に入った。アシビ谷と違って流れは澄んでおり、チェイスする魚がよく見える。
最初の落ち込みで、執拗に追っかけてくる数尾の小魚がいた。ルアーを走らせ続けると、タカハヤをかけてしまい苦笑。
入渓から4時間半近い我慢の時間を経て、11時にようやくリリースサイズの小イワナが釣れてくれた。これで精神的に一気に楽になった。
水は、本来の水量に比べれば少ないのは明らかだが、おそらく前日にそれなりの雨が降ったのだろう。谷全体がしっとりしていて、渇水感はあまりない。
油断してたら、またヒル
朝、アシビ谷で散漫な釣りをしていた時、派手にこけて右足のスネを正面から強打したのだが、そこがやたらと腫れて痛かった。さするついでに足元に目を落とすと、ななな何と。

弾き飛ばした岩の上で踊るヒル
ズボンにヒルが登っていた!
弾き飛ばして岩の上に落ちたヒルに指を近づけた。すると、呼気のCO²に反応して立ち上ってユラユラ動く。いわゆる、ヒルダンスだ。
時折、晴れ間が出て谷が明るくなるので油断していたが、この谷はヤマビル生息圏なのだ。そしてどうやら今日は、ヒルが出る日なのだ。油断もスキもない。。。
ツボクリ谷の上流にイワナは登るのか

ツボクリ谷を登る
晴れ間が出ると樹間から日が差して谷は明るくなり、小イワナもぽつぽつ釣れ始めて楽しくなってきた。
ヒラキでチェイスしてくる中には、パーマークがくっきりしたアマゴの姿もあった。
ルアーを追っかけて、減水のため中洲状になりかけてる川底に、勢い余って身を乗り出してしまう可愛らしいアマゴもいた。
前回、折り返し下山した、直登できない滝を左岸側から高巻きした。この滝を越えると、沢が少し穏やかになる。そして、かろうじてキープサイズのイワナを釣った。

ツボクリ谷のイワナ
その後、それより上流で釣れるイワナはいずれも、20センチこそ切るものの、ツボクリ谷のような枝沢にしては良い型が多かった。
下手にロッドを操作せず、単純にゆっくりタダ巻きしている時にググッと来るなど、釣りやすい。
ヒラキの一番手前の石の陰とか、超浅場は絶対的な狙い目だった。こんなところに?というほどの浅場の石の陰に、かなりの確率でイワナが潜んでいる。
減水してるから当然こちらも、忍者のように接近する。それでも、一体どこに隠れ場所があるのかというほどの、ほんの足元から20センチを越えるイワナに走られてしまう。
そうやって、せっかくのポイントをダメにしてしまう事が何度もあった。
警戒したイワナに走られてしまったら、その場は釣りにならないが、面白いのは、イワナはあきらめが悪いという事だ。
毛バリにせよルアーにせよ、アマゴの場合だったら、一度合わせ損ねたらその魚はまず釣れない。完全に、一発勝負である。

浅場からよく釣れた
しかしイワナは、何度か食い損ねた(こちらとしては合わせ損ねた)後でも、あきらめずルアーを流すと釣れることがよくある。
皆子山への登山ルートの分岐となるトチの木のあたりまで、そんな感じで20センチ弱のイワナが、テンポ良く釣れ続けた。
下の方ではチビイワナしか釣れなかったので、良い型のイワナは、産卵に向けて上流に向かっているということだろうか?
真夏は水が細くなってしまうツボクリ沢だが、上流部分のイワナの濃さにはびっくりした。アシビ谷林道も含めて、登山ルートが荒れ果てたこともあり、ここに入る釣り人は、少ないだろう。イワナが自然繁殖する貴重な沢のひとつだと思う。
別の山か?記憶と違う皆子山
結局、11時から4時間の間、しかも後半の2時間近くは、そこそこいい型のイワナが続けて釣れて満喫できた。午後3時に釣りを止め、塩焼き用にキープした一尾のエラと血合いを抜き、鱗とヌメリを取った。
前回、アシビ谷だけでなくツボクリ谷沿いの登山ルートも荒れまくっている事を知り、登った沢をそのまま下って引き返さざるを得なかった。あのしんどさには懲りたので今回は、思い切って皆子山を登ってしまい、山越えて平(たいら)に下りることにした。

皆子山、山頂直下の急登
前に皆子山に登ったのは、20年以上前になる。2度登ったが、京都府最高峰(標高971m)なのに、山頂はほとんど展望が利かないこと、最後の詰めはクマザサの急斜面だったことは覚えている。しかし、道に迷った記憶はない。
ツボクリ谷からの分岐後は、沢沿いにルートを取る。消えそうな踏み跡と、ところどころにテープの目印があるだけなので、久しぶりに2万5千分の1の地形図と磁石で、方向確認しながら登った。
沢の水が切れた後は、広葉樹林の急斜面になった。見上げる斜面の先には山頂らしき空の広がりが見える。
あれ? なんか、記憶とはぜんぜん違う。根っこをつかむようにして登った、あの強烈なクマザサの藪はどこ行ったんだろう?
つづら折れの登山ルートがあれば少しは楽なのだろうが、明確な踏み跡はなく、テープの目印も頼りない頻度で現れるだけなので不安になるが、地形図と磁石で確認したら方向は間違ってないので、ズルズルの斜面を直登した。

皆子山山頂より、比良山・琵琶湖方面の展望
すると、あっけなく山頂に飛び出した。
山頂を覆っていたクマザサの影も形もなく、比良山の武奈ヶ岳方面や琵琶湖方面の展望も素晴らしい。別の山かと思うほどの変貌ぶりだ。
東南陵のわかりやすいルートを歩き、1時間ほどかけて平(たいら)集落まで降りた。アシビ谷〜ツボクリ谷ルートと違い、植林帯の中のわかりやすい道で、迷うことはない。
最後の最後に、奴にやられた!
平集落からは、車がビュンビュン行く367号線を歩き、旧道のアシビ谷口に着いたのは、5時15分。釣りをやめてから、皆子山を乗り越えて2時間あまりで戻ってこれた。谷を直接下るのと、山頂直下の急斜面直登と、どっちがしんどいのか微妙なところだ。
渓流足袋を脱ぐ時に、ヒルチェックしたが、足元防御態勢は万全のはず。もちろん足は無事だった。全身着替えて、さあ出発しようとハンドルを握った時。
右手の中指と薬指の間にブニュッとした茶色の物体が。。。
ぎゃあぁぁぁ
ヒ、ヒルがまさに吸血を開始したところだった!
憎きこやつは、おそらく、ツボクリ谷か、山頂への沢沿いを登っている時に渓流足袋にとりついたのだろう。
ヤマビル警戒態勢を完全に解いた俺が、しばし山頂で展望を楽しみ、東南稜ルートを鼻歌交じりに下り、車を止めたアシビ谷口までカンカン照りの車道を歩いてる間に、憎きこやつはズボンを登り、ワークマンで買った冷感シャツの長袖を伝って、ようやく露出した肌にたどり着き、指と指の柔らかいところに到着して血を吸い始めたタイミングだったのだろう。
ヒルは、噛み付いた時にヒルジンという血を溶かす物質を注入するので、放っておくと血が止まらない。
指の間を何度も舐めながら、花折峠を下り、湖西バイパスを走った。1時間後に家に着いた時に、ようやく出血が止まっていた。
ヤマビルに付かれると、どうしてもオチがホラー映画みたいになる。車を出す前に気づいたから、まだ良かったけど。